ウクライナについて学べる文献
Литература для изучения Украины и её культуры
文学(ウクライナ語による作品)
『シェフチェンコ詩選』藤井悦子訳注、大学書林'17/11/15
ウクライナ文学で一番えらい詩人のシェフチェンコの作品集に対訳と注釈がついている。
『世界の民話27 ウクライナ』小澤俊夫・関楠生編、ぎょうせい'18/3/16
ドイツで出版された世界の民話全集の翻訳ということですが、“ウクライナ”と銘打っているからには読むべきかなと思いました。民話といっても、子どもむけに書き直したものではなく、オリジナルのままなので、残酷なシーンや、不可解で奇妙な場面も出てきます。
『現代ウクライナ短編集』藤井悦子、オリガ・ホメンコ編訳、群像社'19/9/15
学生時代に読んだのだが当時は学力不足で意味がよくわからなかった。再読の必要あり。
文学(ロシア語による作品)
『ディカーニカ近郊夜話』ゴーゴリ、平井肇訳、岩波文庫
ウクライナ出身の作家ゴーゴリが、ウクライナを舞台にした連作短編集。コサックや村娘たちが、幽霊、悪魔、鬼や怪奇現象と遭遇し、次々と幻想的で不思議な出来事にみまわれていくところが、とてもゴーゴリらしい。
作品では、ウクライナの伝承やフォークロアがモチーフになっていて、深堀りしていろいろ調べていくと、色々と発見がって楽しい。
語学ライターの黒田龍之助先生は、以前ウクライナの世界との出会いがこの作品であったとお話されていた。おそらくそのような人はとても多いのかもしれない。
ただし、この作品はあくまでフィクションで、描かれているウクライナ人像や世界観には、結構ステレオタイプ化された部分もある。日本で例えるなら、芸者やお侍さんや富士山みたいなものである。そういう意味で、中身を丸のみするのはあまりよくないのかもしれない。
ちなみに、ムソルグスキー、チャイコフスキー、リムスキー=コルサコフといった、そうそうたる顔ぶれの作曲家たちが、この『ディカーニカ』をもとにオペラを作曲している。
『ミルゴロド』ゴーゴリ
上の「ディカーニカ近郊夜話」に続いて、ゴーゴリが著したウクライナものの作品集。『昔かたぎの地主たち』『タラス・ブリバー』『ヴィイ』『イワン・イワノヴィッチとイワン・ニキフォロヴィッチが喧嘩した話』の4篇からなる。
「タラス・ブリバー」「ヴィイ」「イワン・イワノヴィッチとイワン・ニキフォロヴィッチが喧嘩した話」の三作は単行本や文庫本になっている。『昔かたぎの地主たち』はゴーゴリ全集で読む必要がある。
「ディカーニカ近郊夜話」に比べると、作品の雰囲気や世界はバラバラになっている。たとえば、『昔かたぎの地主たち』は、田舎ののんびりした暮らしを描いた話だし、「タラス・ブリバー」はコサックの兵隊が活躍する歴史活劇となっている。その分、ウクライナの世界を異国情緒豊かに面白おかしく描く、というレベルから、文学作品としてもっと人間の深い所を描く、みたいな方向へ進んだのかもしれない。
ちなみに「昔かたぎの地主たち」は、二葉亭四迷が「むかしの人」という題でたいへん素晴らしい翻訳をしている。
『マゼッパ』プーシキン
プーシキンはロシア文学で一番えらい詩人である。ただしこの『マゼッパ』については、図書館で「プーシキン全集」でも見ないと読めないようなマニアックな作品。
イワン・マゼッパというウクライナの英雄の話。実は、あのチャイコフスキーはこの作品をもとにオペラ『マゼッパ』を作曲している。しかし、オペラの世界でもたぶんマイナーな作品なので、ロシアの劇場に行かないと観られないかもしれない。
絵本
『てぶくろ』ラチョフ絵、内田莉莎子訳、福音館書店'19/9/19
民話。ロシアにも「テレモーク(お屋敷)」という類似した話があるのだが、こちらはウクライナ民話として日本で出版され、現在も人気の絵本。よく見るとオオカミやキツネが典型的な民族衣装を着ている。こういうところはウクライナないしロシアの画家でないと描けないところ。
『わらの牛』ラチョフ絵、田中潔訳、ネット武蔵野'19/9/19
民話。「わらの牛」はじめ数編の昔話を収めている。上の「てぶくろ」と同じラチョフの絵だが、若干のタッチの変化を感じる。
『かものむすめ』オリガ・ヤクトーヴィチ絵、松谷さやか訳、福音館書店'19/9/19
民話。典型的なウクライナ娘の服装や、農家の家屋の内装の絵が目を引く。悲壮感のあるストーリーなので、子どもにはどう受け止めらるだろうか。
『びんぼうこびと』太田大八絵、内田莉莎子再話、福音館書店'19/9/19
民話。人の家に住み着いてその住民を貧乏にする小人が登場する。途中で主人公がバイオリンを弾くシーンが出て来るが、ウクライナの農民のイメージとして、何か歌を歌って踊ったりする宴会の時にバイオリン弾きはよく登場する。
『セルコ』ワレンチン・ゴルディチューク絵、内田莉莎子文、福音館書店'19/9/19
民話。年老いて役に立たないからと捨てられた犬のセルコが、オオカミと出会う。そこで二人は話し合い、オオカミが家を襲うので、それをセルコが追い払うという芝居をし、自分がまだ役に立つと見せつけてまた主人に拾ってもらおうと図るのである。ここを聞くと、なんだか日本の「泣いた赤鬼」を思い出す。日本では青鬼が結局村を去るという悲劇でおわる。しかしこのセルコに関しては悲愴な終わり方はしない。
ウクライナついて総合的に知るための本
『ウクライナを知るための65章』服部倫卓・原田義也編著、明石書店'19/9/19
ウクライナの歴史、社会、文化、政治について総合的にまとめた本。
歴史
『物語 ウクライナの歴史―ヨーロッパ最後の大国(中公新書)』黒川祐次、中央公論新社'18/3/16
古代から現代までのウクライナの通史の本。最初の章ではスキタイ人の歴史が書いてあるが、スキタイ人はウクライナ人の先祖というわけではない。ただ、現在ウクライナがある場所に住んでいた人々という意味で、よくウクライナ史の中では語られる。スキタイ人の国自体は大昔に滅んでしまったし、スラブ人の歴史へとそのままつながっていくわけではない。ただ、今のウクライナ人にもスキタイ人の遺伝子が脈々と受け継がれているとか。
そういえばロシアのエルミタージュ美術館に昔行ったときに、ほとんど人が見に来ない地下のひっそりしたコーナーに、スキタイ人関連の発掘物が展示してあった。ウクライナはもともとロシア帝国の一部だったので、ウクライナで発掘されたものがロシアの美術館まで運ばれたのかもしれない。
『ポーランド・ウクライナ・バルト史 (世界各国史)』伊東孝之、中井和夫、井内敏夫編、山川出版社
ポーランドやウクライナ、バルト三国の歴史が一冊になっている。ウクライナだけの通史を書いてある本があんまりないので、この本を読むことになる。中井和夫先生のコサックについての描写がすごくワクワクするので、読んでいてとても楽しい。
文化、風習
『呪術・儀礼・俗信―ロシア・カルパチア地方のフォークロア―』P.G.ボガトゥイリョーフ、千野栄一・松田州二訳、岩波書店'18/3/16
タイトルにカルパチア地方とあるように、ウクライナ地域の文化がいろいろ書いてありそうなので、まだ読んでいないけどここにメモしておきます。もともとロシアもウクライナも同じ東スラブ人なので、農民文化やフォークロアに関しては共通項的な部分が多く、いちいち区別しているわけにもいかないのかなと思います。
エッセイ
『ウクライナ丸かじり〜自分の目で見、手で触り、心で感じたウクライナ〜』小野元裕、ドニエプル出版'19/9/19
ウクライナ滞在中のエッセイや、日宇の文化交流に携わる人々について著者の視点で書いてある。2006年発行、まだロシアがクリミアを編入する前に出た本なので、そう思うとなかなか感慨深いものがある。
『ウクライナから愛をこめて』オリガ・ホメンコ、群像社'19/9/19
ひまわりの国と桜の国を結ぶ言葉の架け橋という紹介文があり、前者はもちろんウクライナのこと。よく風景写真として上半分が青空、下半分がひまわり畑の、ウクライナの国旗のような景色が出されるが、あれは下半分がひまわりではなくライ麦畑のときもあったりして、果たして現在ウクライナ人がイメージするのはどの作物だろうかと思う。もっとも、青と黄色の二色旗というのは大昔からあるもので、起源自体はよくわかっていない。
紀行
『オリガと巨匠たち―私のウクライナ紀行』片山ふえ、未知谷
オリガさんという芸術家と一緒に、ウクライナをキエフからリヴィウまで横断していく旅行記。ウクライナの豊かな風土と苦難の歴史という切り口で書いてある。
語学書
『ウクライナ語入門』中井和夫、大学書林'17/11/15
おそらく日本で初めて出たウクライナ語の入門書です。次に掲げた『ニューエクスプレス ウクライナ語』の中で、日本のウクライナ語学習は「本書を持って嚆矢となす」と書いてありました。おそらく学校や教室で使うことを想定しているのか、文法の説明が手短であっさりしているので、まず次の『ニューエクスプレス ウクライナ語』などで要点を理解した上で本書に入る方が分かりやすいと思います。
『ニューエクスプレス ウクライナ語』中澤英彦、白水社'17/11/15
ウクライナ語というと、ロシア語とどう違うかという観点で説明されることが多いのですが、この本はロシア語の知識なしにウクライナ語の勉強ができる本です。中澤先生は、属格、具格と言った用語をつかうなど、一般的な説明とは違う説明をされていることがあります。それはすべて先生の教育上のご配慮で、大学時代に先生から直接ロシア語を教わってきた身としては、むしろ馴染みがあって分かりやすいです。要は、生格と呼ぶか属格と呼ぶかという言い方うんぬんではなく、それはどんな文法的意味を持った格なのかを理解することが大事なのだと思います。
『初級ウクライナ語文法』黒田龍之助、三修社'17/11/15
語学エッセイで有名な黒田先生の本。一つ一つの文がロシア語と比較してある。
『ウクライナ語基礎1500語』黒田龍之助、大学書林'19/9/19
前書きには、自分の語彙力がどれだけあるのかを確認するための本で、辞書として使うものではないとあります。が、アルファベット順にウクライナ語から日本語が調べられ、50音順に日本語からウクライナ語が調べられるので、初級の内は辞書として利用可とも思います。小文法付き。
◆辞書について◆まだウクライナ語の辞書は日本では出ていないので、ウクライナ語に日本語で説明のついたもの、すなわち宇和辞典は日本ではベスト社の『ウクライナ語辞典』があります。もしそこに載っていない単語などに出会ったときは、ウクライナ語─英語辞典、もしくはウクライナ語─ロシア語辞典を参照することになります。どちらもインターネット上にあります。紙の辞書に関しては日本国内では入手が困難です。これはウクライナの書籍を取り扱う書店が日本にはないためです。ただし、ときどき東京神保町のナウカ・ジャパンさんで入荷することがあるので、こまめにチェックする必要があります。
私は幸運にも「メルカリ」で宇露+露宇辞典を発見したので紙の辞書が手元にあるのですが、そこにも載っていない単語は多いので、結局ネット辞書を利用することも多いです。
百科事典
『ロシアを知る事典』平凡社'18/7/3
内容はロシアが中心ですが、ウクライナや旧ソ連についての国についてもたくさん書いてあります。1ページ目から順番に読んでいっても楽しい本です。
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